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   不動産売却に関する重要な判例 NO.16

時効完成後の譲渡
   裁判年月日 平成18年01月17日 




   裁判で判断したこと

    不動産の取得時効完成後に当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した者
   が背信的悪意者に当たる場合



   判決の内容

    甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙が当該不動産の譲渡
   を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該不動産の譲渡を受けた
   時に,甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており,甲の登記
   の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するときは,乙
   は背信的悪意者に当たる。





   主文

   1 原判決のうち別紙記載の部分を破棄する。
   2 前項の部分につき,本件を高松高等裁判所に差し戻す。
   3 上告人らのその余の上告を棄却する。
   4 前項に関する上告費用は上告人らの負担とする。



   判決の理由

   1 原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
   (1) 上告人らは,鮮魚店を開業する目的で,平成7年10月26日,D株式会社
    から徳島県鳴門市a町bc,d及びeの各土地を購入して,同日付けで,その所
    有権移転登記を了した。
     上告人らは,上記開業のための資金の融資を受ける予定の取引銀行から,上記
    各土地の公道(国道11号線)に面する間口が狭いとの指摘を受けたため,その
    間口を広げる目的で,平成8年2月6日,Eから同所f番の土地(地目ため池,
    地積52u。以下「本件土地」といい,上記各土地と併せて「本件土地等」とい
    う。)を代金80万円で購入して,同月13日付けで,その所有権移転登記を了
    し,また,同年4月18日,Fから同所gの土地を購入して,同日付けで,その
    所有権移転登記を了した。

   (2) 被上告人は,本件土地の西側に位置する同所h,i,j,k及びlの各土地
    を所有し,同所h及びiの各土地上に通称「G」と呼ばれる建物(以下「本件建
    物」という。)を所有している。
     なお,上記の各土地の公図上の位置関係は,第1審判決別紙公図の写しのとお
    りである。

   (3) 第1審判決別紙図面(以下「本件図面」という。)の(1),D,C,(2),A,
    @,(3),(4),3105,(5),E,(6),(1)の各点を順次直線で結んだ線で囲
    まれた部分(以下「本件通路部分」という。)は,コンクリート舗装がされてお
    り,国道11号線から被上告人所有の本件建物への進入路として利用されている。

     本件通路部分は,Hが,昭和48年3月から,同所h,i,jの各土地及びそ
    の地上建物(昭和45年建築。以下「従前建物」という。)のための専用進入路
    として,所有の意思をもって,上記各土地並びにそのころ取得した同所k及びl
    の各土地の一部と信じて,占有使用するようになったものであり,Iら10名が
    昭和61年4月にHから上記各土地及び従前建物を購入し,その約3か月後,本
    件通路部分をコンクリート舗装したものである。そして,被上告人は,平成3年
    7月,Iら10名から上記各土地及び従前建物の現物出資を受け,本件通路部分
    を引き続き従前建物及びその後建築された本件建物のための専用進入路として使
    用して現在に至っている。

   (4) 本件土地の位置は,本件図面の3104,D,3102,3100,310
    1,(3),(4),3105,(5),E,3106,3104の各点を順次直線で結
    んだ線で囲まれた部分である。

     本件通路部分のうち,本件図面の(1),D,3104,(1)の各点を順次直線で
    結んだ線で囲まれた部分は,上告人ら所有の同所dの土地の一部であり,本件図
    面の(1),(6),E,3106,3104,(1)の各点を順次直線で結んだ線で囲
    まれた部分(以下「本件通路部分甲」という。)は,被上告人所有の同所j及び
    kの各土地の一部である。

   2(1) 本件本訴請求事件は,上告人らが,被上告人に対し,本件土地の位置が本
    件図面の3100,3101,@,3103,3105,3107,F,E,3
    106,3104,D,3102,3100の各点を順次直線で結んだ線で囲ま
    れた部分(以下「本件係争地」という。)であると主張し,上告人らが本件係争
    地につき所有権を有することの確認を求めるとともに,本件係争地のうち本件図
    面の3105,3103,@,A,B,C,D,3104,3106,E,(5),
    3105の各点を順次直線で結んだ線で囲まれた部分内のコンクリート舗装の撤
    去を求めるものである。

     これに対し,被上告人は,(ア) 本件係争地のうち本件通路部分と重なる部分
    (以下「本件通路部分乙」という。)は,被上告人所有の同所j,k及びlの各
    土地に当たる,(イ) 仮に(ア)が認められないとしても,被上告人は,前々主及
    び前主の占有を併せて,昭和48年2月から20年間本件通路部分乙を占有した
    ことにより,所有権又は通行地役権を時効取得した,(ウ) 仮に(ア),(イ)が認
    められないとしても,同所k及びlの各土地は幅が2mしかなく自動車の通行が
    不可能であるから,被上告人は,本件通路部分乙について,囲繞地通行権を有す
    る,(エ) 仮に(ア),(イ),(ウ)が認められないとしても,上告人らは被上告人
    を困惑させる目的で本件土地を廉価で購入したものであるから,上告人らの請求
    は権利の濫用に当たるなどと主張した。

   (2) 本件反訴請求事件は,被上告人が,上告人らに対し,(ア) 本件通路部分の
    うち本件通路部分甲を除く部分(以下「本件通路部分甲」という。)は,被上
    告人所有の同所j,k及びlの各土地に当たる,(イ) 仮に(ア)が認められない
    としても,被上告人は,前々主及び前主の占有を併せて,昭和48年2月から
    20年間本件通路部分甲を占有したことにより,所有権又は通行地役権を時効
    取得したなどと主張し,主位的に,被上告人が本件通路部分甲につき所有権を
    有することの確認を求め,予備的に,被上告人が本件通路部分甲につき通行地
    役権を有することの確認を求めるものである。

   (3) 上告人らは,被上告人の(1)(イ)及び(2)(イ)の各主張に対して登記の欠缺を
    主張し,被上告人は,これに対して上告人らが背信的悪意者に当たると主張した。

   (4) なお,被上告人は,第1審において,本件通路部分の全体につき所有権確認
    等を求めていたところ,このうち本件通路部分甲の所有権確認を求める部分は,
    第1審で認容され,上告人らから不服申立てがなかったので,原審での審理判断
    の対象とならなかったものである。

   3 原審は,前記事実関係の下で,次のとおり判断し,上告人らの本訴請求を本件
    係争地のうち本件図面のD,3102,3100,3101,@,A,(2),C,
    Dの各点を順次直線で結んだ線で囲まれた範囲内の土地が上告人らの所有に属す
    ることの確認を求める限度で認容し,その余を棄却し,被上告人の反訴請求(主
    位的請求)を全部認容した。

   (1) 本件土地の位置は,本件図面の3104,D,3102,3100,3101
    (3),(4),3105,(5),E,3106,3104の各点を順次直線で結んだ
    線で囲まれた部分と認められるから,上告人らの本訴請求のうち,本件図面の
    3105,3107,F,E,(5),3105の各点を順次直線で結んだ線で囲
    まれた範囲内の土地の所有権確認を求める部分は,理由がない。

   (2) 本件通路部分甲?の取得時効の成否について検討するに,被上告人の前々主は
    昭和48年3月,本件通路部分甲?を所有の意思をもって占有を始め,昭和61年
    4月,被上告人の前主がその占有を承継し,さらに,被上告人が引き続き所有の
    意思をもって占有を継続したことが認められるから,被上告人は,昭和48年
    3月から20年が経過した平成5年3月に本件通路部分甲の所有権を時効取得
    したものというべきである(なお,昭和61年4月からの前主の占有がその開始
    時において善意無過失であったとは認められない。)。

     上告人らは,上記時効完成後の平成7年10月に同所c,d及びeの各土地を
    平成8年2月6日に本件土地を,同年4月18日に同所gの土地をそれぞれ購入
    したことが認められるところ,上告人らは,上記各土地の購入時において,(ア)
    被上告人所有の同所i及びhの各土地上に従前建物と本件建物が建っており,被
    上告人が本件土地の大部分と重なる本件通路部分甲をその専用進入路としてコ
    ンクリート舗装した状態で利用していること,(イ) 被上告人が本件通路部分を
    利用できないとすると,公道からの進入路を確保することが著しく困難となるこ
    とを知っていたことが認められる。そして,上告人らが被上告人を困惑させる目
    的で本件土地を購入したものとは認められないが,上告人らにおいて調査をすれ
    ば,被上告人が本件通路部分甲を時効取得していることを容易に知り得たとい
    うべきであるから,上告人らは,被上告人が時効取得した所有権について登記の
    欠缺を主張する正当な利益を有しないといわざるを得ない。

   4 しかしながら,原審の上記判断(2)は是認することができない。その理由は,
    次のとおりである。

   (1) 時効により不動産の所有権を取得した者は,時効完成前に当該不動産を譲り
    受けて所有権移転登記を了した者に対しては,時効取得した所有権を対抗するこ
    とができるが,時効完成後に当該不動産を譲り受けて所有権移転登記を了した者
    に対しては,特段の事情のない限り,これを対抗することができないと解すべき
    である(最高裁昭和30年 (オ)第15号同33年8月28日第一小法廷判決・
    民集12巻12号1936頁,最高裁昭和32年 (オ)第344号同35年7月
    27日第一小法廷判決・民集14巻10号1871頁,最高裁昭和34年 (オ)
    第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁,最
    高裁昭和38年 (オ)第516号同41年11月22日第三小法廷判決・民集2
    0巻9号1901頁,最高裁昭和41年 (オ)第629号同42年7月21日第
    二小法廷判決・民集21巻6号1653頁,最高裁昭和47年 (オ)第1188
    号同48年10月5日第二小法廷判決・民集27巻9号1110頁参照)。

     上告人らは,被上告人による取得時効の完成した後に本件通路部分甲を買い
    受けて所有権移転登記を了したというのであるから,被上告人は,特段の事情の
    ない限り,時効取得した所有権を上告人らに対抗することができない。

   (2) 民法177条にいう第三者については,一般的にはその善意・悪意を問わな
    いものであるが,実体上物権変動があった事実を知る者において,同物権変動に
    ついての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある
    場合には,登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって,
    このような背信的悪意者は,民法177条にいう第三者に当たらないものと解す
    べきである(最高裁昭和37年 (オ)第904号同40年12月21日第三小法
    廷判決・民集19巻9号2221頁,最高裁昭和42年 (オ)第564号同43
    年8月2日第二小法廷判決・民集22巻8号1571頁,最高裁昭和43年 
    (オ)第294号同年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2671頁
    最高裁昭和42年 (オ)第353号同44年1月16日第一小法廷判決・民集23
    巻1号18頁参照)。

     そして,【要旨】甲が時効取得した不動産について,その取得時効完成後に乙
    が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において,乙が,当該
    不動産の譲渡を受けた時点において,甲が多年にわたり当該不動産を占有してい
    る事実を認識しており,甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認
    められる事情が存在するときは,乙は背信的悪意者に当たるというべきである。
    取得時効の成否については,その要件の充足の有無が容易に認識・判断すること
    ができないものであることにかんがみると,乙において,甲が取得時効の成立要
    件を充足していることをすべて具体的に認識していなくても,背信的悪意者と認
    められる場合があるというべきであるが,その場合であっても,少なくとも,乙
    が甲による多年にわたる占有継続の事実を認識している必要があると解すべきで
    あるからである。

   (3) 以上によれば,上告人らが被上告人による本件通路部分甲?の時効取得につい
    て背信的悪意者に当たるというためには,まず,上告人らにおいて,本件土地等
    の購入時,被上告人が多年にわたり本件通路部分甲?を継続して占有している事
    実を認識していたことが必要であるというべきである。

     ところが,原審は,上告人らが被上告人による多年にわたる占有継続の事実を
    認識していたことを確定せず,単に,上告人らが,本件土地等の購入時,被上告
    人が本件通路部分甲を通路として使用しており,これを通路として使用できな
    いと公道へ出ることが困難となることを知っていたこと,上告人らが調査をすれ
    ば被上告人による時効取得を容易に知り得たことをもって,上告人らが被上告人
    の時効取得した本件通路部分甲の所有権の登記の欠缺を主張するにつき正当な利
    益を有する第三者に当たらないとしたのであるから,この原審の判断には,判決
    に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決の
    うち別紙記載の部分は破棄を免れない。そして,上告人らが背信的悪意者に当た
    るか否か等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき,本件を原審に
    差し戻すとともに,上告人らのその余の上告を棄却することとする。

     よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。





   時効完成後の譲渡(参考法令)

   民法162条(所有権の取得時効) 
   1 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者
     は、その所有権を取得する。 
   2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は
     その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有
     権を取得する。 


   民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 
   1 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百
     二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなけ
     れば、第三者に対抗することができない。 





















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