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   不動産売却に関する重要な判例 NO.19

不動産売買と登記の効力
   裁判年月日 平成8年10月29日 




   裁判所が判断した事項

    背信的悪意者からの転得者と民法一七七条の第三者



   判決の内容

    所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、甲から丙が当該不
   動産を二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完了した場合に、
   丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関係で丁自身が背信的悪意
   者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗すること
   ができる。





   主文

     原判決中、原判決別紙物件目録記載の土地の所有権移転登記手続請求に関する
    部分を破棄し、右部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。

     上告人のその余の上告を棄却する。
     前項の部分に関する上告費用は上告人の負担とする。



   判決の理由

   一 原審の確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

   1 本件土地の分筆及び市道としての整備
   (一) 原判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という)は、もとDが所
    有していた松山市a番町b丁目(表示変更前の同市c町)d番、e番合併一の土
    地(以下これを「合併一の土地」と表示することとし、「合併六、七の土地」も
    これに準ずる)の一部であったところ、被上告人は、昭和三〇年三月、j駅前整
    備事業の一環として、貨物の搬出、搬入用の道路を造るため、右Dから本件土地
    を代金三四万一二八〇円で買い受け、同年四月三〇日その代金を完済した。

   (二) 被上告人とDは、被上告人が買い受ける本件土地を合併一の土地から分筆し
    て合併六の土地とすることにしていたが、分筆登記の手続に手違いが生じ、昭和
    三〇年五月一三日、実際に合併一の土地から分筆された土地は合併七の土地とし
    て表示された。その結果、登記簿や土地台帳の上では合併七の土地というものが
    でき、しかも、合併六の土地はその後も公簿上作られなかったため、合併六の土
    地として登記される予定であった本件土地については、被上告人所有名義の登記
    が経由されないままとなっていた。

   (三) 被上告人は、農地であった本件土地を公衆用道路に造成するため、昭和三〇
    年度の失業対策事業で盛土をして整備したが、昭和四四年六月二一日から同年七
    月一〇日までの間に本件土地の北側と南側に側溝を、ほぼ中央部に市章入りマン
    ホールを二箇所設置するとともに、敷地全体をアスファルトで舗装して現況に近
    い形態の道路として整備した。また、被上告人は、昭和五四年一一月には、本件
    土地内に市道金属標を設置することにより本件土地が被上告人の管理に係る道路
    であることを明確にした。

     また、被上告人は、昭和四三年三月に、地元民の道路境界査定申請に基づき本
    件士地とその南に接する合併八の土地との境界を査定したが、その査定調書には
    本件土地は「市道fgのh号線」と記載されており、被上告人が昭和五四年に作
    成した松山市備付道路台帳にも本件土地は「市道fgのh号線」として掲載され
    た。右道路台帳には、右路線が幅員一四・四メートル、長さ三〇・四メートルで
    ある旨の記載がある。

     このようにして本件土地は、遅くとも昭和四四年七月までに、被上告人所有の
    道路(市道)として一般市民の通行の用に供され、付近住民からも市道として認
    識されてきたが、道路法所定の区域の決定及び供用の開始決定などがされたこと
    を明確に示す資料は残っていない。

   (四) 被上告人は、昭和五八年一月二五日、愛媛県からの指示により、道路法一八
    条に基づき、本件土地及びこれに接続して西方に延びる幅員一・九メートル、長
    さ一八メートルの部分を合わせて「市道fg―h号線」として、区域決定及び供
    用開始決定をするとともにその旨の公示をした。その後昭和六二年三月に告示さ
    れた市道編制により、市道fgのh号線は「fi号線」と路線の名称が変更され
    た。

   2 E産興株式会社による本件土地の取得の経緯
   (一) D家に出入りし同家の財産管理に関与していたFは、昭和五七年の夏、D夫
    妻から、本件土地を一例として、登記簿上Dの所有となっているため固定資産税
    が課されているが所在の分からない土地があるので、これを処分して五〇〇万円
    を得たい旨の相談を受けた。このため、Fは、知人のGにこの話を伝え、協力を
    求めた。Fは、自分の調べた限りでは本件土地はj駅前付近にあると思ったが、
    必ずしも明らかでなかったので、その旨をGに説明した。

   (二) Gは、E産興株式会社、有限会社H不動産及びI有限会社のオーナーとして
    これらの会社を実質的に経営する者であるが、Fからの話を聞き、土地登記簿謄
    本、野取図等に基づいて本件土地の所在場所を確認し、現地を見た上で本件土地
    を購入することにし、昭和五七年一〇月二五日、E産興を代理して、Dを代理す
    るFとの間で、代金を五〇〇万円とする売買契約を締結し、同月二七日、E産興
    名義で所有権移転登記を経由した。なお、その際、売買契約を締結しても確実に
    所有権を移転できる確信がもてなかったFは、Gから万一本件土地が実在しない
    場合にもDに代金の返還を請求しない旨の念書をとった。昭和五七年当時、道路
    でないとした場合の本件土地の価格はおよそ六〇〇〇万円であった(なお、記録
    によれば、後述のIと上告人の売買契約では代金は一億五〇〇〇万円とされてい
    る)。

   (三) E産興は、昭和五八年一月、本件土地に関し市道の廃止を求めるため付近住
    民から同意書を徴するなどしたが、本件土地については、同年二月二五日付けで
    H不動産に、次いで昭和五九年七月一〇日付けでIに、それぞれ所有権移転登記
    が経由された。

   3 上告人は、昭和六〇年八月一四日、Iから本件土地を買い受けてその旨の所有
    権移転登記を経由し、同月二八日、本件土地が市道ではない旨を主張して、本件
    土地上にプレハブ建物二棟及びバリケードを設置した。

   二 被上告人は、本件土地について所有権及び道路管理権を有すると主張して、上
    告人に対し、所有権に基づき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記
    手続を、道路管理権に基づき本件土地が松山市道fi号線(旧同g―h号線)の
    敷地であることの確認を、所有権又は道路管理権に基づき本件土地上に設置され
    たプレハブ建物及びバリケード等の撤去を求め、これに対し上告人は、本件土地
    が上告人の所有であることを前提として被上告人に対し、被上告人が、本件土地
    上のプレハブ建物及びバリケード等を撤去して本件土地を執行官に保管させた上
    市道としての使用に供することができる旨の仮処分決定を得てその執行をしたこ
    とは、上告人に対する不法行為に当たると主張して、損害賠償を求めている。

   三 被上告人の所有権移転登記手続請求について
   1 原審は、(一) 昭和五七年一〇月に本件土地を取得したE産興は、本件土地の
    二重譲受人になるが、E産興を代理したGは、本件土地が既に被上告人に売り渡
    され、事実上市道となり、長年一般市民の通行の用に供されていたことを知りな
    がら、被上告人に所有権移転登記が経由されていないことを奇貨としてこれを買
    い受け、道路を廃止して自己の利益を計ろうとしたものであるから、E産興は背
    信的悪意者ということができ、被上告人は、登記なくして本件土地の取得をE産
    興に対抗し得る、(二) H不動産及びIはいずれもGが実質上の経営者であり、
    上告人は、Iから本件土地を買い受けたが、E産興が背信的悪意者であって所有
    権取得をもって被上告人に対抗できない以上、H不動産及びIを経て買い受けた
    上告人も本件土地の所有権に関し被上告人に対抗し得ない、と判断して、所有権
    に基づく真正な登記名義の回復を原因とする被上告人の所有権移転登記手続請求
    を認容すべきものとした。

   2 しかし、原審の右(一)の判断は正当であるが、(二)は是認することができない。
    その理由は、次のとおりである。
     原審の確定した前記事実関係によれば、本件土地は、遅くとも昭和四四年七月
    までに、土地の北側と南側に側溝が入れられ、ほぼ中央部に市章入りマンホール
    が二箇所設置されるとともに、全体がアスファルトで舗装された道路として整備
    され、一般市民の通行に供されてきており、近隣の住民からも市道として認識さ
    れてきたところ、E産興の代理人Gは、現地を確認した上、昭和五七年当時、道
    路でなければおよそ六〇〇〇万円の価格であった本件土地を、万一土地が実在し
    ない場合にも代金の返還は請求しない旨の念書まで差し入れて、五〇〇万円で購
    入したというのであるから、E産興は、本件土地が市道敷地として一般市民の通
    行の用に供されていることを知りながら、被上告人が本件土地の所有権移転登記
    を経由していないことを奇貨として、不当な利得を得る目的で本件土地を取得し
    ようとしたものということができ、被上告人の登記の欠缺を主張することができ
    ないいわゆる背信的悪意者に当たるものというべきである。したがって、被上告
    人は、E産興に対する関係では、本件土地につき登記がなくても所有権取得を対
    抗できる関係にあったといえる。この点に関する論旨は、原審の専権に属する証
    拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき原
    判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

   3 ところで、所有者甲から乙が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙が
    当該不動産を甲から二重に買い受け、更に丙から転得者丁が買い受けて登記を完
    了した場合に、たとい丙が背信的悪意者に当たるとしても、丁は、乙に対する関
    係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得
    をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。けだし、(一)
    丙が背信的悪意者であるがゆえに登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三
    者に当たらないとされる場合であっても、乙は、丙が登記を経由した権利を乙に
    対抗することができないことの反面として、登記なくして所有権取得を丙に対抗
    することができるというにとどまり、甲丙間の売買自体の無効を来すものではな
    く、したがって、丁は無権利者から当該不動産を買い受けたことにはならないの
    であって、また、(二) 背信的悪意者が正当な利益を有する第三者に当たらない
    として民法一七七条の「第三者」から排除される所以は、第一譲受人の売買等に
    遅れて不動産を取得し登記を経由した者が登記を経ていない第一譲受人に対して
    その登記の欠缺を主張することがその取得の経緯等に照らし信義則に反して許さ
    れないということにあるのであって、登記を経由した者がこの法理によって「第
    三者」から排除されるかどうかは、その者と第一譲受人との間で相対的に判断さ
    れるべき事柄であるからである。

   4 これを本件についてみると、上告人は背信的悪意者であるE産興から、実質的
    にはこれと同視されるH不動産及びIを経て、本件土地を取得したものであると
    いうのであるから、上告人は背信的悪意者からの転得者であり、したがって、E
    産興が背信的悪意者であるにせよ、本件において上告人目身が背信的悪意者に当
    たるか否かを改めて判断することなしには、本件土地の所有権取得をもって被上
    告人に対抗し得ないものとすることはできないというべきである。以上と異なる
    原審の判断には、民法一七七条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決
    の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由があり、原
    判決中本件土地の所有権移転登記手続請求に関する部分は破棄を免れず、更に審
    理を尽くさせるために右部分を原審に差し戻すのが相当である。

   四 被上告人のその余の請求及び上告人の請求について
   1 原審は、被上告人は、本件土地につき道路法一八条に基づく区域決定及び供用
    開始決定をしその旨の公示をしたのであるから、本件土地につき道路管理権を有
    する、との理由で、被上告人の道路管理権に基づく道路敷地確認請求及びプレハ
    ブ建物等の撤去請求はいずれも認容すべきものと判断した。所論は、E産興が背
    信的悪意者であるとした原審の判断には法令の解釈適用を誤った違法があり、被
    上告人がE産興所有の本件土地につき供用開始の決定及び公示をしても、その決
    定及び公示は無効であるというものである。

   2 しかしながら、E産興が背信的悪意者であるため、被上告人はE産興に対する
    関係では、本件土地につき登記がなくても所有権取得を対抗できる関係にあった
    ことは、前述のとおりであるから、既に一般市民の通行の用に供されてきた本件
    土地につき、被上告人が昭和五八年一月二五日にした道路法一八条に基づく区域
    決定、供用開始決定及びこれらの公示は、本件土地につき権原を取得しないでし
    たものということはできず、右の供用開始決定等を無効ということはできない。
    したがって、本件土地は市道として適法に供用の開始がされたものということが
    でき、仮にその後上告人が本件土地を取得し、被上告人が登記を欠くため上告人
    に所有権取得を対抗できなくなったとしても、上告人は道路敷地として道路法所
    定の制限が加えられたものを取得したにすぎないものというべきであるから(最
    高裁昭和四一年(オ)第二一一号同四四年一二月四日第一小法廷判決・民集二三
    巻一二号二四〇七頁参照)、被上告人は、道路管理費としての本件土地の管理権
    に基づき本件土地が市道の敷地であることの確認を求めるとともに、本件土地上
    に上告人が設置したプレハブ建物及びバリケード等の撤去を求めることができる
    ものというべきである。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することが
    できる。また、以上によれば、道路管理権を有する被上告人が仮処分の決定を得
    てプレハブ建物等を撤去し、本件土地を市道として通行の用に供していることは
    上告人が本件土地の所有権を取得しているか否かにかかわらず、不法行為を構成
    しないことが明らかであるから、上告人の損害賠償請求を棄却すべきものとした
    原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法は認め
    られず、論旨は採用することができない。
     よって、原判決中所有権移転登記手続請求に関する部分を破棄して右部分を原
    審に差し戻すこととするが、その余の上告は棄却することとし、民訴法四〇七条
    三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文の
    とおり判決する。





   不動産売買と登記の効力(参考法令)

   民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件) 
   1 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百
     二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなけ
     れば、第三者に対抗することができない。





















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