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   不動産売却に関する重要な判例 NO.36

司法書士の義務
   裁判年月日 昭和53年07月10日 




   裁判所が判断した事項

    登記権利者及び登記義務者双方から登記手続の委託を受けた司法書士が登記義務
   者から登記手続に必要な書類の返還を求められた場合における登記権利者に対する
   委任契約上の義務



   判決の内容

    登記権利者及び登記義務者双方から登記手続の委託を受け、右手続に必要な書類
   の交付を受けた司法書士は、手続の完了前に登記義務者から右書類の返還を求めら
   れても、登記権利者に対する関係では、同人の同意があるなど特段の事情のない限
   り、その返還を拒むべき委任契約上の義務がある。





   主文

    原判決を破棄する。
    本件を大阪高等裁判所に差し戻す。



   判決の理由

   一 原判決によれば、上告人らが本件請求の原因として主張するところは、次のと
    おりである。
   (1) 上告人A1、同A2及び訴外Dは、昭和四二年六月一二日から昭和四三年一
    月一八日までの間に株式会社E工務店から第一審判決添付の目録に記載の三筆の
    土地(以下「本件土地」という。)をそれぞれ買い受け、手付を支払い、Dは、
    上告人A3に対し、買主の地位を譲渡した。

   (2) 上告人らは、昭和四三年二月八日、売主とともに司法書士である被上告人
    に対し、本件士地について所有権移転の仮登記手続を委託し、売主及び買王の
    委任状、印鑑証明書、資格証明書等登記手続に必要な書類を交付したところ、被
    上告人は、その数日後、売主からその交付にかかる登記手続に必要な書類の返還
    を求められ、買主である上告人らの同意を得ることなく、直ちにこれを売主に返
    還した。

   (3) 売主は、それから程なく同年三月初めに倒産し、本件土地は、他に売却され
    所有権移転登記がされたため、上告人らは、本件土地について登記を経由するこ
    とができず、結局、本件土地の所有権を取得することができなくなり、損害を被
    つた。右損害の額は、少なくとも、上告人らが売主に交付した手付のうちその後
    売主から一部返還を受けた額を控除した残額に相当する額である。

   (4) 登記権利者、登記義務者の双方から登記手続の委託を受けた被上告人として
    は、登記義務者からその交付にかかる登記手続に必要な書類の返還を求められて
    も、登記権利者の同意がなければ、返還すべきではなく、これを返還したことは
    上告人らとの委任契約上の債務不履行となるものであり、被上告人は、上告人ら
    の被つた前記損害を賠償すべきである。

   二 上告人らの右主張についての原審の判断は、次のとおりである。
   (1) 不動産の売買契約の履行として、売主と買主の双方が司法書士に登記手続を
    委託する場合に、右三者間に特段の約定がされない限り、各委任契約は、単純に
    併存するのにすぎず、一方が他方の制約を受けたり、運命を共にしなければなら
    ない関係にはなく、一方の委任者は、他方の委任者の同意を要することなく委任
    契約を解除することができる。

   (2) このように、一方の委任者であるE工務店は、受任者である被上告人との間
    の登記手続の委任契約をいつでも解除することができるのであるから、受任者と
    しては、登記手続に必要な書類の返還を求められれば、それを拒むことはできな
    い。それ故、被上告人がE工務店の求めに応じて右書類を返還したため、登記手
    続が不能になつたとしても、上告人らと被上告人との間の委任契約の債務不履行
    又は善管注意義務違反になるものではなく、被上告人に対して損害賠償を求める
    上告人らの請求は、理由がない。

   三 思うに、不動産の売買契約においては、当事者は、代金の授受、目的物の引渡
    し、所有権移転等の登記の経由等が障害なく行われ、最終的に目的物の所有権が
    完全に移転することを期待して契約を締結するものであり、法律も当事者の右期
    待にそい、その権利を保叢すべく機能しているというべきである。そして、不動
    産の買主は、登記を経由しない限り、第三者に対抗しうる完全な所有権を取得す
    ることができないのであるから、登記手続の履行は、売買契約の当事者が行うべ
    き最も重要な行為の一つであるということができるが、登記所に対して登記申請
    をするには、ある程度の専門的知識を必要とするから、現今の社会では、右のよ
    うな登記手続は、司法書士に委託して行われるのが一般であるといつてよく、こ
    の場合に、売買契約の当事者双方がいつたん右手続を同一の司法書士に委託した
    以上、特段の事情のない限り、右当事者は、登記手続が支障なく行われることに
    よつて右契約が履行され、所有権が完全に移転することを期待しているものであ
    り、登記手続の委託を受けることを業とする司法書士としても、そのことを十分
    に認識しているものということができる。このことは、所有権移転登記手続に限
    らず、その前段階ともいえる所有権移転の仮登記手続の場合も同様である。そう
    すると、売主である登記義務者と司法書士との間の登記手続の委託に関する委任
    契約と買主である登記権利者と司法書士との間の登記手続の委託に関する委任契
    約とは、売買契約に起因し、相互に関連づけられ、前者は、登記権利者の利益を
    も目的としているというべきであり、司法書士が受任に際し、登記義務者から交
    付を受けた登記手続に必要な書類は、同時に登記権利者のためにも保管すべきも
    のというべきである。したがつて、このような場合には、登記義務者と司法書士
    との間の委任契約は、契約の性質上、民法六五一条一項の規定にもかかわらず、
    登記権利者の同意等特段の事情のない限り、解除することができないものと解す
    るのが相当である。このように、登記義務者は、登記権利者の同意等かない限り
    司法書士との間の登記手続に関する委任契約を解除することができないのである
    から、受任者である司法書士としては、登記義務者から登記手続に必要な書類の
    返還を求められても、それを拒むことができるのである。また、それと同時に、
    前記のように、司法書士としては、登記権利者との関係では、登記義務者から交
    付を受けた登記手続に必要な書類は、登記権利者のためにも保管すべき義務を負
    担しているのであるから、登記義務者からその書類の返還を求められても、それ
    を拒むべき義務があるものというべきである。したがつて、それを拒まずに右書
    類を返還した結果、登記権利者への登記手続が不能となれば、登記権利者との委
    任契約は、履行不能となり、その履行不能は、受任者である司法書士の責めに帰
    すべき事由によるものというべきであるから、同人は、債務不履行の責めを負わ
    なければならない。

     そうすると、前記のとおり、被上告人に委任契約の債務不履行又は善管注意義
    務違反はないとして上告人らの損害賠償請求を排斥した原審の判断は、法令の解
    釈適用を誤つたものであり、その誤りは、判決に影響を及ぼすことが明らかであ
    るから、この点に関する論旨は、理由があり、その余の点について判断するまで
    もなく、原判決は破棄を免れず、更に、審理を尽くさせるため、本件を原審に差
    し戻すこととする。

     よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判
    決する。





   司法書士の義務(参考法令)

   民法644条(受任者の注意義務) 
   1 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理
     する義務を負う。 


   民法651条(委任の解除) 
   1 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 
   2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の
     一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由
     があったときは、この限りでない。 


   司法書士法1条(目的) 
   1 この法律は、司法書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、登記
     供託及び訴訟等に関する手続の適正かつ円滑な実施に資し、もつて国民の権利
     の保護に寄与することを目的とする。 


   司法書士法2条(職責) 
   1 司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正
     かつ誠実にその業務を行わなければならない。 
















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